心の炎が消えぬ間に

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「8人の2DRPG」としての磨き上げと割り切り【オクトパストラベラー(クリア後感想)】

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 オクトパストラベラー、クリアしました。メインシナリオ全攻略後に戦える裏ボスも撃破したので、感想をば。
 ちなみにクリアタイムは87時間05分。各地のダンジョンを一通り巡ったこともあって、結構な時間がかかっています。

 クリア後感想ということである程度のネタバレを含みます。犯人はヤス」的なストーリーの詳細に関する言及はなるべく避けていますが、ゲームのボリューム感や攻略のコツなどが含まれるので、未クリアの方は留意のうえで御覧頂ければ幸いです。

 

 

●絆よりも個人の信念を重視したメインストーリー群

 

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 プレイしていてまず思ったのが、メインストーリーの大胆な割り切りっぷり。

 メインストーリーは原則としてシナリオでは各キャラクターのみが話に関わり、パーティに居る他のプレイヤーキャラはそれに無言でついていくような扱い。一応場面の合間にパーティチャットで仲間とのやりとりが入ることはあるのですが、シリアスな物語進行の合間の箸休め的な会話が多かった印象があります。仲間の存在がストーリーに何らかの介入をもたらすことはなく、8人それぞれが独立している印象を強く感じました。

 昨今のJRPGはプレイヤーキャラ同士の"絆"の描き方に力を入れているものが多い印象がありますが、オクトパストラベラーのメインストーリーは8人のキャラクターそれぞれに関して「仲間は応援はするが、各々の道を切り拓くのはあくまで当人である」という指向の物語でした。なので仲間の繋がりがもたらすものを期待している人にとっては微妙に映ったかもしれませんね。"本当に大事なところではひとりきりで試される"という、若い友情・愛情とは対極にあたる、個人の精神・信念の話と言えるかなとも思っています。

 個人的には、本作のように自立した人物達がゆるくドライに繋がっている関係性もいいものだなと好意的に受け止めています。

 

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 身も蓋もないことを言えば【パーティ編成もストーリー攻略順序もプレイヤーの自由】という形式を取るためにこうせざるを得なかったのかなと勘ぐるところではあります。ポジティブな言い方をすると「順逆自在でなければならないなら、キャラクターがひとりだけでも成立するように、その人の信念によって自ら進んでいく物語を書けばいい」という考えでメインストーリーを作ったのかなと思っています。

 書きたい物語ありきではなく、作りたいRPGのシステムが先にあって、それに合う構成の物語を書く。RPGにおいてはやや珍しい手法だと感じたのは私だけでしょうか?

 

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 肝心の出来についてですが……8人それぞれの個性がよく現れていて、物語的には非常に楽しくプレイできました。迷わずマイペースかつ一直線に謎に向かっていく人もいれば、目の前の事件に集中することで迷いを払おうとする人もいましたし、雰囲気の明暗、NPCとの関わり方、敵対する相手の性質などがそれぞれ違っていて「似たりよったりのストーリーにはしない」ように作りこまれているように感じました。
 一方でゲームとしては、進行のしかたがほぼ「街で情報収集>ダンジョンを踏破してボスを倒してクリア」で統一されていて、そこには多少の変化をつけられる余地があったのではないかとは思います。ダンジョンも後半は既視感が強いものが多くてちょっと残念。その代わり各章のボスはそれぞれが独特の攻撃/防御能力を持っていて、サクサクペースでの進行だとかなり歯ごたえがある強さもあいまって非常に戦いがいがありました。

 振り返ってみると1人あたり4章というのは軽い気もしなくはないですが、8人という数がありますし、それぞれの話に消化不良も感じずスッキリと終えられたので、メインストーリーの物語部分に不満はありません。逆にこれ以上1人あたりのシナリオが長いと、8人全て終えるまでの間に胃もたれ感を覚えるような気がしています。
 物語上の難点があるとすれば、メインシナリオ全クリア後の最終決戦がシナリオ的にかなり淡白だったところ。各キャラクターの4話でなにか大きな流れがあるように思わせるところまでは素晴らしかったのですが、そこからの〆にもっと醍醐味を得られるだけの話の厚みが欲しかったです。裏話的なものなのでああいう手法になるというのも、理解できなくはないんですけどね。

 

●HD-2Dフィールドと情感溢れる音楽による、世界観表現の豊かさ

 

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 前回の20時間時点感想でも触れましたが、HD-2Dのフィールドは実に美しい。
 精緻なドット絵と、遠近や水・光の表現の組み合わせからなる本作の情景は、下手な3D世界よりも上をいっているのではないでしょうか。

 付け加えて、各地のBGMがしっかりと各地の印象を補完しているのが素晴らしい。
 草原・森・砂漠・海岸・高原などの自然の広がりや、港町・歓楽街・辺境村・隠れ里・宗教都市・城塞などから伺える雰囲気が、音楽で豊かに表現されていました。
 キャラクターテーマは各人ごとに違ったメイン楽器が割り当てられている(サントラ冊子から)など、音楽の方向性がバラエティに富んでいるのも良いところです。

 RPGは色々とプレイしてきましたが、フィールド描写と音楽でここまで世界観をプレイヤーの心に染み込ませてくる作品は滅多に無いのではと思えるほどでした。音楽と風景の作り込みは「2D作品でも工夫と入念な作り込みがあれば、豊かな世界を構築できる」と思わせるだけの力があり、本作最大の強みと言っていいかもしれません。

 あえて難点をひとつ挙げるとしたら、ダンジョンやストーリー演出系の曲にやや使い回しが目立つところでしょうか。素晴らしい曲がとても多いのですが、曲数がキャラクター・フィールド・戦闘方面に偏り気味であったように思います。

 

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 BGMで個人的に好きなのは
 ・狩人ハンイットのテーマ
 ・静寂なる森の里
 ・海風を聴く街
 ・サンランド地方
 ・地下道ダンジョン
 ・バトル1
 ・ボスバトル1&2
 ・エンディングテーマ
 等々。特に地下道ダンジョンは「ついに世界一カッコイイ下水道が更新された!」などと供述しており(ry
 サンランド地方は屈指のフィールド曲だと思っています。バトルではボス曲2が特に好み。裏ボスの曲も、猛々しさと畏怖が強く感じられて好きですね。

 

NPCの賑やかさが楽しかった街と、寂しく単調だったダンジョン

 

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 これも前回触れた点のひとつですが、フィールドスキル、特に【聞き出す/探る】で街のNPCに関する情報を知ることができる点がとても楽しく、今作で特に気に入ったところです。
 街によっては情報にある程度のテンプレートが敷かれていたのも良かったですね。炭鉱夫とか剣闘士とか。後半の街になってそういう変化・工夫が見られたところに、力を入れて作り込んだ印象を感じました。
 一部NPCの情報がストーリーの進行で変化するのも、シナリオ単体だけでなくその後を知るオマケ付きで楽しめて良かったです。 特に連続型のサブストーリーで各地を旅するNPCやメインストーリー後の顛末を確認できるNPCが思いの外多く主人公達以外にも様々な人々がこの世界を生き、旅しているという実感が得られて、作中世界の広がりを感じさせる上で非常に良い存在になっていました。

 

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 フィールドスキルによって街中で強力な装備が手に入る点は賛否ありそうですが、個人的には良い塩梅でした。バトルシステムがある程度の戦術的工夫を求める作りなので、発見しやすい手段で強力な装備が少数配置されていたほうがプレイヤーにとって指針を得やすく、戦闘の面白みを感じやすいようにする良い仕掛けになっていたのではないかと思います。ここは人によって好みが分かれるかもしれません。

 

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 街にフィールドスキル絡みの楽しさが詰まっていた反面、ダンジョンは最後までこれといったギミックが無く構造のひねりも少なかったように思います。宝箱の隠し方と個性的なボスモンスターで最低限の探索要素は担保されていましたが、ダンジョン好きには物足りないのは確かでしょう。(某遺跡は凄みがあったけれど、ああいうのがもっと欲しかった…)
 シンプルな作りゆえにあまり迷ったり悩んだりせず戦闘に集中できるのはメリットと捉える方も居そうではありますが…このあたりはひょっとしたら携帯できるSwitchのゲームであることを考慮した結果なのかもしれません。殆どのダンジョンにセーブポイントが複数あること、ダンジョンの深度がかなり抑えられていて長時間潜らなくて済むようになっていることからも、携帯可能なゲームであることを意識したチューニングの一環であった可能性があるなと思っています。

 

●爽快感重視でチューニングされたバトルシステム

 

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 開始当初から楽しかった戦闘、中盤でのバトルジョブ解禁によって一気に自由度が広がり、かなり爽快感のあるバトルを楽しめました。
 「ブレイクを取ってからBPを注ぎ込んで一気に攻める」スタイルは、"プレイヤーの選択次第によって大きな結果が得られる可能性"と"事前に準備を要する面倒やテンポの悪さの問題"の両面に高いレベルで応えてくれました。あらゆるコマンド式バトルはこの2つの課題を背負っていると思うのですが、ここまで複雑な要素を排しつつ戦術的な奥行きを与えているものは初めてで、見事という他ありません。

 

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 基本のバトルシステムが秀逸なのは勿論ですが、加えて評価したいのは敵やジョブ、アビリティ等が戦術性や爽快感を得やすいように調整されている点です。

 例えば本作はバトルジョブを複数人で重複することが出来ないので、ある行動を繰り返すような戦法はあまり効率的ではなく、自然と複数の職や技をどう組み合わせるか考えることになります。この点は8人のベースジョブによる個性が失われないという意味でも非常に良い縛りでした。ジョブチェンジが出来るゲームではPCが全員同じような存在になりがちなのですが、本作はキャラクターによる装備の制限が無いのに各人の個性がしっかり残っているのがまた凄い。

 そしてこのゲームにはブレイク対象としての弱点はありますが、ダメージを軽減・無効・倍化するような属性相性はありません。これはRPGの戦闘ではかなり珍しいスタイルですが、それによって特定の属性が必須だったりお荷物になったりという事態が少なくなっており、戦闘が複雑になりすぎないようになっています。「ブレイクの段階で戦術性は充分含まれているので、大ダメージはお好みの方法でどうぞ」という割り切りっぷり。だが、そこがいい。多くのジョブで装備とBP次第で雑魚を蹴散らすには充分なダメージを与えられるようになっているので、パーティー編成の自由度が全編通してかなり高いゲームでした。(断じて槍弓ゲーではないと力説したい)

 それでいてアビリティ取得に必要なポイントは全職共通。育てるためにジョブを嫌々出す必要は無いという親切設計。好き放題やれるって素晴らしい。

 

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 敵についても漫然と戦っては倒しにくいくらいのHP、全体的に高めの攻撃力があり、個性についてもブレイク属性やほどほどに脅威となっている状態異常である程度はあったと思います。あえて言えば雑魚のバリエーションに亜種が多く見た目の変化が少なかったのがやや残念ですが、似た姿から上位種のブレイクを予想できるという利点もあったので許せる使い回しかなと。
 ボスに関しても簡単にブレイクさせない仕掛けが色々と用意されていて雑魚戦とは違った独自性があり、楽しく戦えました。プレイヤーサイドの取れる行動にかなり強いものがあるので(裏ボス以外は)全力全開だと歯ごたえに欠けるという感想もありそうではありますが、与被ダメージ両方を高めにしてちょっとした工夫をすれば突破可能というゲームバランスは、間口を狭めることなく奥深さを演出する意味でベストだったと思います。

 あと、地味な部分ですがHD振動と効果音の組み合わせもいい仕事をしていました。ブレイクしたときの破砕感BPを注ぎ込むときの鼓動は、戦闘の手応えと爽快感を高める名脇役になっていると思います。戦闘とは別ですが売買時の金銭授受的な感覚も良かったですね。

 

●戦闘システムの集大成を味わえるが、リトライがしんどすぎた裏ボス

 

 はい、多くの人がしんどい思いをしたであろう裏ボスです。未経験の方にネタバラシをしてしまいますが、

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 前座として育っていれば楽勝のボスが8戦、その後本番として超強力な裏ボスが2連戦(しかも8名を2パーティーに分割)

  という構成を途中セーブ不可で攻略する内容でした。
 本番たる2連戦はそれまでのバトルとは一線を画する強敵で、このゲームにほぼ唯一のエンドコンテンツバトルとして相応しい相手だと思います。相手の防御をどう剥がすかがポイントで長期戦寄りの前半と、苛烈な攻撃を凌ぎつついかに早く相手の手数を潰していくかという短期決戦寄りの後半というバリエーションの分け方が秀逸で、何度も挑んで攻略を見出す前提であれば素晴らしいラストバトルだと思います。そう、リトライが苦でなければ。

 問題は前座の8連戦。ハッキリ言ってここで苦労するようでは絶対に本番で勝てないですし、本番で勝てるスペックがあるなら苦戦する要素はほぼありません。本番攻略に勤しむ段階では前座戦はただの作業であり、それを越えるのに40分前後かかってしまう。このあまりにも長く無駄な再戦までの作業をリトライの度に強いるのは幾ら何でも酷すぎる。


 本戦は個人的にRPG経歴の中でもトップクラスに充実したラストバトルだったのですが、この欠陥があるために手放しで褒められないのがなんとも惜しいです。あれだけセーブポイントを各地にバラ撒いて中断しやすくしているのに、どうして最後だけこんなにも不親切なのか……ここだけはそれまでのゲームプレイから感じ取れる設計思想との不一致が酷く、不可解さに首を傾げるところでした。

 繰り返しになってしまいますが、本番2連戦の苛烈さを乗り越えるために試行錯誤すること自体は最高に楽しかったです。本作にはメインストーリー攻略中に強すぎるのではと思った技・アビリティ・アイテムが結構な数あるのですが、これだけの強敵なのだから全てを惜しみなく使おうと素直に思える相手が最後にいて良かったと思っています。プレイヤー側が強力な手段を持っていることに対して、それをぶつけるに足る相手がいないというのは寂しいですからね。上級職も解禁がゲームの終盤になるであろう位置付けだったので、このバトルが無かったらオーバーキル的な存在で終わっていたかもしれません。
 2連戦でプレイヤーキャラ8名全員の育成が必須であったことも、個人的には気に入っています。全員参戦は是非やって欲しかった反面、メインストーリー中に複数のキャラクターが必要な要素があると多くのプレイヤーが未育成キャラに足を引っ張られることになるので、クリア後の最終決戦のみというのは妥当な扱いでしょう。

 

 

●2DRPGには、まだまだ可能性がある

 

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  というわけで、オクトパストラベラーの全般的な感想でした。

 本作は「8名の独立したストーリーを自由順序で楽しめる2DRPG」として最大の楽しさを得られるように様々な努力がなされた作品でしたが、その作り込みにはいくつかの割り切りが見られたとも思っています。
 例えば敵モンスターの造形や能力の詳細、ダンジョンの内部構造、メインストーリー進行のバリエーション、8人メインストーリー後の展開、などはもっと多彩に出来たであろう部分です。それらが簡素なものになったのは納期ゆえか、予算の都合か、あるいはゲームの複雑さを高めすぎないための抑制なのか……
 それゆえに、私はこの作品は存分に楽しめたものの、それゆえにさらなる凄みを加えることができたであろう部分が惜しいとも感じてしまいます。といってもそれは必ずしもネガティブなものだけではなく、30年を超える積み重ねを経て古典的と呼ばれるようになった2DRPGに、さらなる発展の可能性があるのだということの証明でもあると思っています。

 いちゲームとしての楽しさのみならず、2DRPGというジャンルのこれからに強い期待を抱かせてくれた本作に感謝いたします。


 とりあえずHD-2Dがもっと見たい。今後の展開、期待しています!